メソッドの構造

2024年10月10日

 ここではアナロジカル・デザインにおけるメソッドの構造について解説します。アナロジカル・デザインはダブルダイヤモンドに沿って進めますが、これは5つの「フェーズ」に分解することができます。時間軸に沿って5つの「フェーズ」の概要を確認します。また、物事を把握する際に有効な4つの「特性」について解説します。この「特性」は「フェーズ」を通して参照します。
 ここでは、5つの「フェーズ」と4つの「特性」からなるメソッドの基本構造を把握します。メソッドの概要や特徴などについては「アナロジカル・デザイン・メソッド」を参照してください。

アナロジカル・デザインのメソッド全体図


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進め方/フェーズの概要

 メソッドは問題発見と問題解決をする要素から構成されます。フェーズ1から3までで問題発見を行い、フェーズ4と5で問題解決を行います。

フェーズ概要

フェーズ1:ターゲットの具体化

 自分が問題を発見し解決したいモノやコトが「ターゲット」になりますが、このターゲットの問題を発見するために、様々な観点からターゲットを具体化するフェーズです。具体化とは漠然とした曖昧なことを細部まで分解し明確にすることです。ターゲットのことを良く知っていると思っていても、ある特定の面だけに詳しく、他は漠然としているということもあります。漠然と曖昧になってしまうのは、どのような観点で捉えればよいかが分からないということが原因として考えられます。
 アナロジカル・デザインメソッドでは、後述する「4つの観点」を示しています。ターゲットの仕様や機能、外観などを客観的に具体化することで、ターゲットに関する理解を深めます。

フェーズ2:ターゲットの抽象化

 フェーズ1で具体化した内容を基にこれを抽象化しターゲットの本質を掴みます。抽象化には複数の要素間にあるパターン(法則)を見つけ構造化したり、複数のものをまとめて一つとして扱ったりする方法があります。また、大事な要素を抜き出して他は捨て去ることも重要です。
 具体的な事象を「結果」と捉え「何故、そうなっているか?」を考えることで「原因」を把握します。また、具体的な事象を「手段」と捉え「何故、そうなっているか?」を考えることで「目的」を把握します。
 抽象化は「正解」「不正解」のようにデジタルに分けられるものではありません。自らの価値観で重要と思われる意味や目的を抽出することが重要です。

フェーズ3:マッチングと問題定義

 ターゲットと類似している領域である「ベース」を探索します。フェーズ1で抽出した具体的なレベルでの類似も検証しますが、重要なのはフェーズ2で抽出した構造や目的レベルでの類似です。ベースはターゲットに対して新しい観点を与えるものになります。自分の詳しい領域や興味を持っている領域からベース候補になるものを探しますが、メソッドではこのような候補をどのように抽出してくるかについてのガイドを示します。
 マッチングの過程で、相手であるベースとの比較からターゲットに欠けている部分が見えてきます。また、類似しているけれどベースの方が進んでいたり深掘りされている場合もあります。
 このようなベースとのギャップをターゲットの問題として認識し文章で表現することにより問題を定義します。

フェーズ4:ベースから適用する内容の具体化

 ターゲットとベースの類似点に加え相違点についても具体的なレベルで検証します。類似点に目が行きがちですが、安易に類似点を取り込むことで、本質的な相違点に気付かない場合があります。このような相違点による弊害を防ぎます。
 そのうえで、ベースからターゲットに適用する要素を明らかにし、その効果や意義を検証します。ターゲットとベースが構造や目的など抽象度の高いレベルで類似していても、実現手段である、機能や仕様、外観などがターゲットとは異なっていたり、そもそも存在しなかったりします。この違いや欠落をベースから持ち込むことでターゲットの新しい姿を構想します。

フェーズ5:解決策の総合とプロトタイピング

 フェーズ4で抽出されたベースからターゲットに適用する内容を総合します。このとき、すべてを総合するのではなく、有効なものを選択・抽出します。
 総合された解決策によりフェーズ3で設定した問題が解決しているかを検証します。そのうえで、解決策をプロトタイピングやビジネスモデリングの手法で抽象化します。無形物の場合はビジネスモデルやストーリーボードで他者に説明できる形に仕立てます。有形物の場合はモックアップやペーパープロトタイピングの手法を用います。

繰り返し実行

 フェーズ1からフェーズ5は必ず1回づつ行わなければならないものではありません。納得できるアウトプットができるまで、問題発見を繰り返しても構いませんし、問題解決を繰り返すことも可能です。フェーズ4とフェーズ5を実施してみて、上手く問題解決が図れない場合はフェーズ3まで戻りマッチング先を変更することも検討してください。
 また、必ずフェーズ5までたどり着かなければならないというものでもありません。例えば、フェーズ1とフェーズ2を行うことでモノやコトを抽象化したレベルで把握することができます。これをライブラリー化しておくことで、ベースの候補として利用することもできます。

繰り返し実行のイメージ

物事を把握するための「4つの特性」

 アナロジカル・デザイン・メソッドでは以下のような特性からターゲットを捉えています。
・ビジネス特性
・空間的特性
・時間的特性
・社会的特性
 アナロジカル・デザインが対象とする領域はビジネス、サービス、情報システムに加えて有形物全般も含みます。 例えば、ビジネス上のあるサービスをデザインする場合もあれば、個人が使う日用品をデザインする場合もあります。非常に広範囲のモノやコトを対象にするので、これらに共通して利用でき、かつ、適格に捉えることができる観点が必要になります。ターゲットとなるモノやコトを的確に具体化し抽象化するために上記の特性を把握することを提案しています。
 但し、ターゲットとするモノ・コトによって特性の重要性は変わってきます。ビジネス上のサービスの場合は当然「ビジネス特性」の重要度が高くなります。ただ「社会的特性」に見落としていた大事な要素が含まれているかもしれません。個人の日用品では「ビジネス特性」の重要度は高くないかもしれません。一方、外観がポイントになるなら「空間的特性」が重要になります。時間と共に変化したり減少したり利用プロセスに独自性がある場合は「時間的特性」が重要になってきます。
 ターゲットによって4つの特性の重要性は異なってきます。該当する特性がまったく抽出されない場合もあるかもしれません。その場合はスキップしてかまいません。但し、一度は各々の特性でターゲットを見つめてみることをお勧めします。先入観にとらわれず、ターゲットを見たときに思わぬ発見があるかもしれません。

ビジネス特性

 ビジネスからターゲットを捉える観点になります。顧客特性、バリューチェーン特性、製品・サービス特性、財務特性、エコシステム、生産特性、販売特性などの観点からなります。
 ビジネスの世界では様々な特性について検証が進んでおり、ビジネスモデルとしての成功パターンや業界の常識のようなストックがたくさんあります。ビジネス特性を把握することで、これらのストックと比較が可能になります。同じ業種・業態のビジネスに準じた特性を持っているのか、それとは違った特性があるのかを理解することで、ターゲットの本質を把握します。

空間的特性

 この世のあらゆるものは「空間的」に存在しており、かつ「時間的」に存在しています。この二軸でとらえることで、漏れなくターゲットを把握します。
 有形物においては外観や色などの物理的構造が重要になります。無形物には物理的構造はありませんが、固有の働きである機能的構造があります。また、ターゲットを「利用する人」や「提供する人」というように人間が関わっているので人的構造があります。
 ターゲットを空間的な広がりという観点で見たときには、このような物理的、機能的、人的な構造が重要になります。さらに、物理的、機能的、人的な構造は各々が関連しているので、これらの結びつきも重要な空間的特性になります。空間的特性を明らかにすることで、ターゲットの特性を理解します。

時間的特性

 順序や時間経過によって発生する事象に焦点を当てるのが時間的特性です。デザインされるモノやコトは何等かのかたちで利用されます。この利用の過程はターゲットの特性を現わしています。また、利用者が利用を開始する前の段階にも時間的な過程があります。製品が作られたり、サービスが導入されたりする提供の過程もターゲットの特性が現れます。
 さらに、歴史的な経緯も重要です。ターゲットが初めて登場してから、どのような経緯を経て現代に至ったのか。発明や普及の過程における技術革新や社会とのかかわりを追跡することで、ターゲットの特性を捉えます。

社会的特性

 デザインするものは何等かのかたちで社会との接点を持っています。社会とのかかわりの中で法律や慣習などにより制約を受けている場合があります。このような制約を検証することでターゲットの特性を理解します。
 また、ターゲットは利用者に便益を与えるに留まらず、社会全体に貢献している場合もあります。反対に社会にリスクを与えている場合もあります。一部の利用者には利益があるがその他には弊害があるという場合です。
 これらの、直接的、間接的な社会への影響を検証することでターゲットの特性を理解します。

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 以上、4つの特性はフェーズ1からフェーズ5までを通して参照します。各フェーズごとに4つの特性を検証するのが基本ですが、1つの特性に絞ってフェーズを進めていくことも可能です。フェーズごとに満足のいくアウトプットがあれば先に進みます。満足がいかない場合は特性を変えてやり直します。

フェーズを通して参照する「4つの特性」

 今後、本サイトではフェーズ1からフェーズ5の具体的な手順を詳述していきます。

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