1-2-3 時間的特性
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1-2-2 空間的特性
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(フェーズ1)ターゲットの具体化
1-2-3 時間的特性
アナロジカル・デザインではターゲットの構造や位置関係に関することは「空間的特性」として、プロセスや順序、因果関係に関することは「時間的特性」として扱います。ここでは「時間的特性」を検証します。
ターゲットは何等かのかたちで利用されますが、利用には必ずプロセスがあります。それは「栓抜き」のようなシンプルな道具についてもあてはまります。栓抜きを使うプロセスは「持ち手を握り」「栓の部分に押し当て」「上方向に引き上げる」という順序になっています。これ以外の順序では使えないので、利用プロセスは栓抜きを強く制約しており、その特性をよく表すものになっています。
様々なサービスにも利用のプロセスがあります。鉄道を利用する場合、目的地までの切符を買い、これを改札機に通して入場し列車に乗ります。目的地に着いたら列車を降りて再び改札機に切符を通し改札を抜けます。しかし、鉄道を利用するプロセスはこれだけではありません。取りあえず入場券を買って列車に乗り、車内改札が回ってきたら目的地までの切符を買うという方法もあります。いつも決まった目的地に行く場合は定期券という方法で切符をまとめ買いしておき、普段の乗り降りでは切符の購入を省略するという方法もあります。利用プロセスはサービスの幅やサービスレベルを決定している場合もあります。
プロセスは製品を作ったりサービスを運営する提供側にもあります。普通の寿司店では板前さんがお客さんの注文を聞いてから寿司を握ります。お客さんに寿司を提供し、食べ終わったら代金を受け取ります。ところが、回転寿司では板前さんはお客さんの注文を聞きません。注文の前に計画に合わせて寿司を握り、回転するベルトに載せていきます。お客さんはベルトの上を流れてきた皿を取りますが、これが注文に相当します。提供するモノは同じでも、提供プロセスが異なると全く別のサービスになる場合があります。
また、ターゲットは現在にだけ存在しているのでありません。現在の姿とは異なるかもしれませんが、過去にも存在していたはずです。初めて作られてから様々な変遷があり現在の姿になっているというケースがほとんどだと思います。このような、ターゲットが現在の姿になるまでの歴史も「時間的特性」として把握します。まだ、この世に存在しないモノゴトがターゲットの場合もそのターゲットが所属する領域や分野について検証してください。今までにない全く新しい「自動車」を構想する場合も「自動車」の歴史は参考になるはずです。
1-2-3-1 利用プロセス
ターゲットを利用するプロセスを検証します。ターゲットは何等かの目的を達成するために利用されますが、これにはいくつかのプロセスを踏む必要があります。有形物の場合は手に取ったり、見たり、聞いたりなど感性(五感)で把握しながら利用します。無形物であるサービスなどを利用する場合もパソコンから操作したり、書類を提出したり有形物が介在して利用を進める場合がほとんどです。
利用によって目的を達成するプロセスをイメージしてみましょう。また、具体的に目的を達成するためのプロセスの前後には、利用を始めるための準備や、利用を終えた後処理などもあります。このような、前後のプロセスについても想いを巡らせてみましょう。
1-2-3-1-1 全体プロセス
利用に関するプロセスの全体像をつかみます。多くの場合、以下の3つのプロセスに分割できますが、これらに特別な名称がつけられていればそれに言い換えてください。3つ以上に分割できる場合はそのように分割してみてください。
・利用準備
・利用
・利用終了・廃棄
Q1.利用に伴うプロセスの全体像はどのようなものですか?
1-2-3-1-2 利用準備
ターゲットの利用に際して、様々な前準備が必要な場合があります。有形物であれば製品などを入手する前、無形物であればサービスなどの利用を開始する前の段階です。例えば以下のようなものがあります。
・情報収集、学習:利用するために知識やスキルが必要な場合、利用に先立ち、情報を集めたり学習するなどの活動を行います。
・比較検討:製品・サービスの選定のために他の製品・サービスと比較を行う場合があります。単に機能的に類似しているモノゴトだけでなく、例えば「電車移動中の暇つぶし」には「本を買う」と「Netflixに入る」が比較される場合もあります。
・購入・利用契約:製品・サービスの利用に先立ち、有料のものは購入したり利用契約を結ぶなどの手続きが必要になります。
・配送、受け取り:有形物の製品などは、利用に先立ち配送や受け取りなどのプロセスが発生します。迅速な配送や美しいパッケージングは重要な価値になっています。
Q1.利用に伴う前準備にはどのようなものがありますか?
Q2.前準備で特徴的なことは何ですか?
1-2-3-1-3 利用
製品などの有形物であれば入手してから、サービスなどの無形物であれば契約、加入などが完了してから実際に目的を達成するための利用が始まります。利用プロセスは消耗品やイベントなどの場合は一回きりという場合もありますが、たいていは繰り返し行われます。利用プロセスは以下のように分割することができます。
・利用開始:利用目的を達成するための行為に先立つ活動(充電、組み立て、設置、ログイン、受付など)
・利用実施:利用目的を達成するための行為
・利用終了:利用を終了するための活動(解体、収納、ログアウトなど)
・通常外処理:利用に伴う障害や異常が起こったときに行う活動(問合せ、修理など)
Q1.利用開始プロセスの内訳にはどのようなプロセスがありますか?
Q2.利用実施プロセスの内訳にはどのようなプロセスがありますか?
Q3.利用終了プロセスの内訳にはどのようなプロセスがありますか?
Q4.通常外処理プロセスの内訳にはどのようなプロセスがありますか?
1-2-3-1-4 行為の7段階モデル
「行為の7段階モデル」(D.A.ノーマン「誰のためのデザイン?」)を用いて利用プロセスを把握します。
1.ゴール:目標の設定
2.意図:目標を実現するための行為を意図する
3.行為系列の生成:行為の詳細化
4.実行:行為の結果、外界に変化
5.知覚:外界の状態を知覚
6.解釈:変化した外界の意味を解釈
7.評価:解釈した結果が目標を達成しているか否か
例として「夕暮れに本を読んでいたら暗くなってきた」場合です。
1.ゴール:「もっと明るくする」というのが目標になります。
2.意図:「カーテンを開ける」「明るいところに移動する」「照明を点ける」など複数考えられますが、例えば「照明を点ける」を選択します。
3.行為系列の生成:「照明を点ける」方法にもいくつか考えられます「人に頼む」「右手で点ける」「左手で点ける」など。
4.実行:「右手で点ける」と決めてこれを実行します
5.知覚:照明が点灯した結果を知覚します「照明は点いたけど明るさが足りない」など
6.解釈:明るさが足りないのは「明かりが別の方向を照らしているから」という意味を理解
7.評価:あまり明るくないので目標は達成されないという評価
利用者が円滑にこれらの段階を進むことができれば、利用プロセスは円滑なものとなります。ターゲットの利用プロセスを7段階プロセスに当てはめてみましょう。
Q1.利用者は何を達成したいのでしょうか?
Q2.目的を達成するための選択肢はどのように示されますか?
Q3.いま、どの行為ができるのかはどのよう示されますか?
Q4.いま、利用者が行っていることはどのように示されますか?
Q5.何が起こったのかはどのように示されますか?
Q6.それは何を意味するかどのように伝えていますか?
Q7.利用者の目的は達成されていますか?
1-2-3-1-5 利用終了
繰り返し使う製品や定期的に利用するサービスもいつかは利用しなくなります。利用を止める際にもいくつかのプロセスがあります。
・解体、分解
・廃棄、廃止
・解約申請、アカウント削除
・再利用、リセール...など
Q1.利用終了に伴う後処理にはどのようなものがありますか?
Q2.後処理で特徴的なことは何ですか?
1-2-3-2 提供プロセス
ターゲットを提供するプロセスを検証します。製品などの有形物であれば製造され、出荷され、販売されます。製品は製品そのものに価値があり、利用者が利用の都度その価値を享受するというのが一般的で、提供プロセスはそのような価値を持つ製品をいかに作り出し利用者に届けるかがポイントになります。
サービスなどの無形物も企画され、構築され、提供されるというプロセスが存在します。このような無形物では提供プロセス自体が価値になっている場合があります。多くの理髪店ではシャンプーして髪を切り、もう一度シャンプーしてから顔剃り、マッサージがあって、ドライヤーというプロセスだと思います。これは利用者の満足と理容師の作業効率を最大化するために入念に組み立てられたプロセスです。このサービス提供プロセス自体が「散髪」の価値を生み出しているともいえます。
有形物と無形物で提供プロセスの意味に若干違いはありますが、ターゲットの特性を把握する際の重要性は変わりません。
1-2-3-2-1 全体プロセス
提供に関するプロセスの全体像をつかみます。以下は一例になります。これらに特別な名称がつけられていればそれに言い換えてください。下記の例とは異なるフェーズの場合はそのように分割してみてください。
■製品など有形物の場合
・研究・企画フェーズ(研究・開発、商品企画、設計、試作など)
・製造フェーズ(購買、生産など)
・販売フェーズ(流通、販売など)
・保守フェーズ(アフターサービスなど)
■サービスなど無形物の場合
・研究・企画フェーズ(要件定義、システム設計、サービス設計など)
・製造フェーズ(システム開発、サービス開発など)
・販売フェーズ(営業、契約、サービス提供など)
・保守フェーズ(保守・運用、顧客満足度調査など)
Q1.提供に伴うプロセスの全体像はどのようなものですか?
1-2-3-2-2 研究・企画フェーズ
研究・企画フェーズのプロセスを検証します。以下は一例になります。これらに特別な名称がつけられていればそれに言い換えてください。下記の例とは異なるフェーズの場合はそのように分割してみてください。
■製品など有形物の場合
・研究・開発(新製品または新しい製造方法の開発、改良のための研究など)
・商品開発(市場分析、ターゲット設定、コンセプト設定、プロモーション戦略など)
・設計(構想設計、基本設計、詳細設計など)
・試作(試作作成、評価、改良版作成など)
■サービスなど無形物の場合
・要件定義(顧客リサーチ、サービスコンセプト設定、要件設計など)
・システム設計(概要設計、詳細設計、プログラム設計など)
・サービス設計(サービス設計など)
Q1.研究・企画フェーズのプロセスはどのようなものですか?
Q2.研究・企画フェーズで特徴的なプロセスはどのようなものですか?
1-2-3-2-3 製造フェーズ
製造フェーズのプロセスを検証します。以下は一例になります。これらに特別な名称がつけられていればそれに言い換えてください。下記の例とは異なるフェーズの場合はそのように分割してみてください。
■製品など有形物の場合
・購買(価格決定、部品・材料調達、納品検査、支払いなど)
・生産(在庫管理、生産計画、製造指示、製造、出荷、進捗管理、原価管理など)
■サービスなど無形物の場合
・システム開発(プログラム開発、テストなど)
・サービス開発(サービス運用計画、サービステストなど)
Q1.製造フェーズのプロセスはどのようなものですか?
Q2.製造フェーズで特徴的なプロセスはどのようなものですか?
1-2-3-2-4 販売フェーズ
販売フェーズのプロセスを検証します。以下は一例になります。これらに特別な名称がつけられていればそれに言い換えてください。下記の例とは異なるフェーズの場合はそのように分割してみてください。
■製品など有形物の場合
・流通(在庫管理、引当、搬出、納品)
・販売(営業、引合、見積、受注、出荷、納品、請求)
■サービスなど無形物の場合
・営業(営業、引合、見積)
・契約(受注、契約締結)
・サービス提供(教育、システム導入、サービス提供)
Q1.販売フェーズのプロセスはどのようなものですか?
Q2.販売フェーズで特徴的なプロセスはどのようなものですか?
サービスなど無形物における「サービス提供」プロセスはターゲットの価値そのものとも考えることができます。
Q3.「サービス提供」プロセスで特徴的なことは何ですか?
1-2-3-2-5 保守フェーズ
保守フェーズのプロセスを検証します。以下は一例になります。これらに特別な名称がつけられていればそれに言い換えてください。下記の例とは異なるフェーズの場合はそのように分割してみてください。
■製品など有形物の場合
・アフターサービス(消耗品交換、修理、問合せなど)
■サービスなど無形物の場合
・保守・運用(問合せ対応、バージョンアップ、障害対応、環境維持、バックアップなど)
・顧客満足度調査(満足度、切り替え有無、改善要望など)
Q1.保守フェーズのプロセスはどのようなものですか?
Q2.保守フェーズで特徴的なプロセスはどのようなものですか?
1-2-3-3 歴史
ターゲットは様々な変遷を経ていまの姿になりました。ここでは、初めてターゲットが登場してから現在に至るまでの「歴史」を検証します。
ターゲットの利用者や提供者、その時代の様々な社会的な要因などが関係して、ターゲット独自の歴史が刻まれます。歴史を確認することでターゲットの特性をよく把握することができます。また、歴史的な事実を知ることで、ターゲットを外側から客観的に捉えることができるようになります。
通常、私達は今あるターゲットの姿を認識してこれを前提に考えがちです。しかし、過去から存在しているターゲットは未来へも繋がっており、現在の姿は一断面でしかありません。ターゲットが登場したときの問題意識や社会への受け入れられ方、普及と発展の経緯、現れた課題と改良の実態、新製品・サービスへの世代交代などの様子を時間軸で捉えることで、ターゲットの理解を深めます。
1-2-3-3-1 製品・サービスの登場
ターゲットが誕生したのは何等かの問題を解決するためです。そして、これに先立って何等かの問題が発見されていたはずです。いま、私達はターゲットの問題を発見しようとしていますが、このようなターゲットの誕生にまつわる問題発見と問題解決の様子を知ることは、現在のターゲットを理解するうえでも重要です。
Q1.発明やイノベーション創出に至るきっかけはどのようなものですか?
Q2.当時の課題認識や社会課題はどのようなものですか?
Q3.参考にした事例や前世代の該当製品・サービスはどのようなものですか?
Q4.登場した時の社会の受け入れ方はどのようなものでしたか?
Q5.発明者の目的は達成されましたか?
1-2-3-3-2 商品化、市場進出(導入期)
ターゲットが初めて市場に進出するなど、自分以外の利用者が現れたときの状況を検証します。この時期は知名度や認知度が低く、あまり売れず(利用されず)売上もわずかにしか増加しません。
Q1.初めてターゲットを商品化し市場進出を目指したのは誰ですか?
Q2.商品化や市場進出における課題や解決方法はどのようなものでしたか?
Q3.市場進出した時の社会の受け入れ方はどのようなものでしたか?
この時期に利用を開始した人たちの特性はターゲットの性質を良く表します。
Q4.この時期に利用を開始した人(アーリーアダプター)はどのような属性の人ですか?
1-2-3-3-3 革新と市場拡大(成長期)
ターゲットの利用が急速に拡大する時期は参入企業も増え競争がおこり価格も手頃になってきます。社会に影響を与えたり、反対に社会から影響を受けたりなど、関係も拡大し複雑になります。
Q1.市場拡大の要因になった技術革新にはどのようなものがありますか?
Q2.市場拡大の要因になった社会の意識変化にはどのようなものがありますか?
この時期には同じ市場にぞくぞくと新規業者が参入してきます。
Q3.主なプレーヤーはどのような事業者ですか?
Q4.各々のプレーヤーの活動実績(成功と失敗の事例)はどのようなものですか?
ターゲットが市場拡大したことにより、周囲に様々な影響を与えます。
Q5.従来製品・サービスはどのような影響を受けましたか?
Q6.市場を取れずに競争に敗れた者の原因とその後の対応はどのようなものでしたか?
1-2-3-3-4 成熟した市場の形成(成熟期)
ターゲットが市場にいきわたり売上の伸びが弱くなる時期、利益は安定し最大になるが成長は鈍化します。参入企業が多く値崩れが発生し利益率も悪化してきます。
Q1.シェアを獲得した事業者はどこですか?
Q2.飽和した市場における製品・サービスの差別化のための瀬策はどのようなものでしたか?
この時期になると、新世代の予兆も現れはじめます。
Q3.代替製品・サービスの先触れはどのようなものでしたか?
1-2-3-3-5 新世代との交代(衰退期)
製品自体が顧客のニーズに合わなくなる、あるいは、もっと魅力ある新製品に世代交代することで売上が減少してきます。この時期になると、製品・サービスが持っている機能的価値が終了している場合があります。
Q1.ターゲットの機能的役割が終わる理由は何ですか?
Q2.縮小された状態で継続(保守のみなど)可能な場合はその理由は何ですか?
機能的な役割を終えても情緒的価値は残っている場合もあります。
Q3.ターゲットに情緒的価値が残っている場合、それはどのようなものですか?
Q4.情緒的価値を求める市場や個人の実態はどのようなものですか(規模、属性など)?
新世代の製品・サービスが既に登場していたり、その準備が進められていることもあります。
Q5.ターゲットの役割を引き継ぐものは何ですか(単に機能的役割を引き継ぐとは限らない)?
Q6.新世代の製品・サービスが登場している背景はどのようなものですか(課題やニーズなど)?